高齢者、障害者、困窮者が共にいる日常風景を求めて―協同労働、社協、NPO、個人の取組から

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 共に働く街を創るつどい2015報告の第2弾!

 長生ひなた・渋沢さんの特別報告を受けて、他のパネリストからまずそれぞれの自己紹介と今回のテーマに即しての活動の概要を話していただいた。

 トップは、ワーカーズコープ北関東事業本部・さいたま南地域福祉事業所の所長を務める芹沢由和さん。

 芹沢さんがワーカーズコープに関わったのは、1970年、視覚障害のシングルマザー・堀木文子さんが,障害福祉年金と児童扶養手当の併給禁止は憲法第25条の生存権の保障および14条の平等保障原則に違憲するとして提訴した堀木訴訟の事務局に関わったことが縁という。堀木訴訟に関わっていた団体の一つが、日雇い労働者の組合・全日自労で、失業対策事業を政府が打ち切ったことに対して闘い、自分たちの受け皿をということで中高年雇用福祉事業団をつくった。芹沢さんはその当時からの生え抜きで、病院の清掃や草刈りなどの仕事を開拓しながら組織して行った。昔埼玉、その後本部、九州、東北とありとあらゆる所で仕事してきた。いま埼玉の現場に戻ってきた。「協同労働の協同組合」の動く歴史資料館のような存在だ。

 協同労働という雇用されない形で、人と地域に必要とされる多種多様な仕事をやっている。埼玉県内では30事業所があり、県内の自治体関連の施設運営などをしている。昨年まではアスポートという生活困窮者支援をしていた。いまは生活保護の就労支援や相談、困窮者の自立支援など、県の仕事も含めて11ヶ所。越谷でもやっている。
 現在のさいたま南地域福祉事業所は、戸田の「ぽけっと」と「そら」と川口の「たいむ」の3つの現場をもっている。本日は戸田の活動紹介。
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 ぽけっとは地域の支えあい、ボランティアを組織し援助の仕事やB級野菜の販売。地域支えあい事業、とだ・おーる助っ人事業の概要。登録している会員は120名ぐらい。利用チケットを買ってもらいボランティアが利用権を地域通貨に換えて利用。チケットを800円で買ってもらい、「500オール」、500円。この差益の300円がなければ地域の支えあいは難しいかなと思う。最近では150から160時間ぐらいの助け合い。

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 そらは学童保育。学童に来る子供と見沼の畑に行って活動。野菜の産直活動で知り合った人が畑の指導。協同労働に賛同してくれた人の畑に行っている。子供たちの中には発達障害の子供もたくさんいる。性同一性障害の子もいる。ジャガイモ等を植えるところからみんなで行なっている。子供たちと一緒に収穫する。畑に子供を連れていくと自然の顔になる。こんなことを社会連帯の取り組みとして、多世代の地域の支えあいみたいな形でやっている。取ったジャガイモをカレーにして食べて、自分たちで植えて育てて食べる。
 こんな形で戸田では畑をしながら社会連帯、地域の人たちの力を借りながら地域貢献みたいなことをやっている。
 
 
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 二番手は、社会福祉法人越谷市社会福祉協議会地域福祉課副主査の坂本剛一さん 。16年間続けてきたこの「共に働く街を創るつどい」で社会福祉協議会が登壇するのは初めてのこと。朝日さんが述べていたように、住民参画の福祉推進組織である社会福祉協議会には今後さまざまな面で期待したい。坂本さんは同協議会の事業内容と地域福祉活動計画について紹介された。
 
 
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支えあい・助け合いではふれあいサロン。公民館などで高齢者、家族を対象に気軽に立ち寄れる場所。社協は地域の人の運営のお手伝い。市内に90カ所ぐらい。推進員はふれあいサロンの担い手。いま五百数十名。
 ふらっと蒲生、ふらっと大袋。文字通りフラッと立ち寄れる場所、講座の実施等やりながら。ふらっと大袋は学生ボランティアの受け入れなど。
 一人暮らしの高齢者の会食サービス。19のグループがやっている。
 次に相談について。福祉の相談が基本で、総合福祉相談ということで心配事。
 成年後見センター。判断能力が落ちた方の後見。
 さらに地域包括支援センター、貸付事業、コミュニケーション支援事業、介護事業。介護保険事業も行っている。ホームヘルプサービス、障害者や高齢者が対象。
 ボランティアについてはボランティアセンターがある。介護支援ボランティア、高齢者に限られているが、高齢者の施設でボランティアすることでスタンプ、それがたまるとお金に換金。後は災害ボランティア。各種ボランティア養成等に取り組んでいる。
 
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 つぎに地域福祉活動計画について。越谷市では地域福祉計画を策定しているが、社協では地域福祉活動計画。市との連携が必要で、越谷市の地域福祉計画と連携。基本目標は大きく5つ、一人ひとりが大切にされ、みんなが助け合うまち…平成25年度策定で5カ年。これについては適宜進行管理しているが、推進委員会があり、進捗、今後の方向について意見をいただき、計画の推進を行っている。

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 ここでコーディネーターの朝日さんより、会場に向って地域福祉活動計画について知っている人に挙手を求めたところ、少数しかいなかった。市の地域福祉計画に対して、社会福祉協議会が作るのが地域福祉活動計画だが、同協議会会員でもある人が多い住民が参画して作る計画なので、より多くの人々の関りを進める必要がある。朝日さんは、またふらっと蒲生では、戸田のぽけっとと同じように商店街と連携した地域支え合い事業を行っていることも付け加えた。

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 三番手は、NPO法人共に生きる街づくりセンターかがし座理事長の吉田久美子さん。同法人は、福祉制度が乏しい時代に障害者と主婦たちで運営し、公的には障害者雇用促進法の助成のみを受けてやっていたリサイクルショップ「ぶあく」と、やはり当初は障害者と介助者等が会費やカンパを出し合って運営してきた介助システムで現在は総合支援法の居宅介護事業所にもなっているケアシステムわら細工、そして当初は県単独事業の地域デイケア施設で現在は地域活動支援センターになったパタパタの3事業体が合体した事業体。吉田さんはパタパタの施設長でもある。
 障害者たちはサービスの対象者として位置づけられるだけでなく、さまざまな形で事業運営を担って働いている。法人の諸事業はもちろん、地域の商店や事業所からチラシの編集・印刷・配布や工場敷地の除草など、委託業務も積極的に開拓し、実施している。
 このような先駆的な活動を行っているため、当会として今年度、医療福祉事業団の社会福祉振興助成事業として行っている「障害者と地域住民による身近な仕事起こし」事業においても連携事業所になっていただいている。なお、冒頭の芹沢さんが所属するワーカーズコープ北関東事業本部もやはり連携事業所である。
 パネリストとして報告して頂いた吉田さん自身、電動車椅子を使用し一人暮らししている障害者だ。
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 吉田さんは、今回「幹也くんのお弁当にまつわるお話」と題してプレゼンを行った。吉田さんが施設長を務める地域活動支援センターをしばらく前に利用し始めた幹也くんは、それまで入所施設で暮してきたこともあり、お金の感覚が身についていない。コンビニで弁当を注文し温めてもらった後で、お金が足りないことがわかり、本人も店員も困ってしまう。それで、買物に行く前に地域活動支援センターでお金をチェックしているのだが、それを続けているだけではいつまでもひとりで買物ができないままになる。もう一度幹也くんを信じて買物に行かせたりしながら、どんな形がいいのか探っている状態だという。
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 吉田さんは、「ひとりで買物」と「支援を受けて買物」という選択肢(支援の方法はさまざまだが)以外に、「地域・職場の関係を調整して買物」という選択肢もあるのではと提起する。これらの選択肢はいずれかひとつということではなく、本人も支援者も三つめの関係の一部と考えられる。
 本人も、支援者も、そして地域の他の人々やコンビニ職場で働く人も、出来事を重ねながら、より納得できるつきあい方を身に付けて行くことをめざしたいという。
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 現実の地域・職場は、グローバリゼーションの波を受け、地域産業の空洞化、競争の激化、非正規労働・ワーキングプアの増加といった状況が深まり、「コンビニ職場で働く人とのつきあい」など甘い考えが成り立つのかとの疑問も生じる。しかし、最近、コンビニ経営者が本部に酷使される状況が白日の下にさらされ、「コンビニ。オーナー家族も労働者」と都労委で認められる事態になっている。それぞれしんどい状況にあるからこそ、すぐには難しくとも、つきあってゆける土壌も備わってきているともいえる。ちなみに、当会の障害者達による飛び込み訪問「仕事発見ミッション」で、かなり多くのコンビニが超多忙の中で職場体験を受けいれて下さっている。

 吉田さんは、ひとりひとりの障害者の暮らし方・働き方が周りとぶつかり、互いに迷いながら歩み寄ってゆくことで、「障害者福祉」であるとか「〇〇福祉」とか「〇〇就労」とかの既成の枠組みが拡がってゆくことが誰にとっても生きやすい地域につながると思うと語った。

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 しんがりは「障害者就労支援センター職員からケアマネとして働いて思うこと」と題して阿久津和子さん。阿久津さんはまず、この会場に職場参加ビューロー世一緒の障害者スタッフや就労支援センターで支援した障害者が多数参加していることに感謝する、就労相談の事業はお互いの相互作用なので、阿久津さん自身も障害者から気づかされたり、その変化で達成感を得たりしたと述べた。
 阿久津さんは施設に通所する重度重複障害者の親で、障害者自立支援法ができて施設報酬が日割り計算になった時、親たちもヘルパー資格を取って地域生活を支えようという話が出て資格を取ったという。その後社会福祉士やケアマネの資格も。
 昨年度1年間は就労支援センターで働いたが、特に高齢者施設の職場開拓・就労支援に傾注した。障害のある人の働きやすい時間とは、障害のある子どもの親にとっても働きやすい時間だったと阿久津さんは言う。それで、高齢者施設に一緒に同行して、清掃や洗物、厨房補助、館内整理の補助などを一緒にやって、充実感をもって仕事できたのがうれしかったという。それだけに、突然の受託終了はショックだったとも。
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 阿久津さんの現在の職場は、ワーカーズコレクティブのNPO法人で高齢者のデイサービスもやっている。担当している利用者を通して思うことは、独居の高齢者世帯が500万、夫婦世帯が500万という時代となり、制度利用が進んでいる半面、自然発生的なひなたぼっこ、井戸端会議のような場がなくなっていること。それは息子を養護学校に通わせた時に地域とつながりが断たれたと感じたことと共通している。地域の中でその人と他の人々が出会っていることで、迷子になってもわかりやすい。制度だけではなく、地域の力や昔からの関りがあれば今の生活をそのまま継続できると感じている。

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 4名の方々のうち、芹沢さんは協同労働の協同組合を進める全国組織で、坂本さんは住民参画の地域福祉を進める最大の全国組織。それに対し、吉田さんは共に生きる地域をめざす小さなNPO法人で、阿久津さんは個人。各々の組織実態には甚だしいちがいがあるが、4名の報告を並べてみると、阿久津さんの最後の言葉、「制度だけではなく、地域の力や昔からの関りがあれば今の生活をそのまま継続できると感じている。」というところが、共通項になろうとしている感触を得た。

 その感触を頼りにしつつ、どのように先へ進めてゆけるのか。
 「地域のつながり」が、分けられた秩序の階層をよりきめ細かく多様化するだけにならない歯止めは、どのように設定できるのか。
 協同労働の協同組合という枠組み、そして地域福祉活動計画の枠組みにおいて、事業や制度をこえた関係をどのように担保したらよいのか。
 中核地域生活支援センター・長生ひなたの経験に学びつつ、討論に入って行く。

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