安房の伊予ヶ岳・富山へー民権と軍制の軌跡にふれフユイチゴをつむ

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正月休みの内にPCに向ってやるべき仕事がいろいろあったが例により後回しにして、また南房総の低山へ。朝、岩井駅からタクシーで平群天神社へ。樹齢千年と伝えられる夫婦クスの大木の向こうに見えるのが、これから登る伊予ヶ岳(336m)。

四国の石鎚山(1982m)の山容に似ていることから名付けられたという。『古語拾遺』によれば、阿波の忌部氏らが黒潮に乗り、房総半島南端の布良の浜に上陸し開拓を進めた。そして阿波の忌部氏の住んだ所は、「阿波」の名をとって「安房」と呼ばれたとされる。これが史実かどうかはともかく、伊予ヶ岳の名も黒潮を通じた人と人のつながりに由来するのかもしれない。
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 その登山口になる平群天神社に、地元出身の「民権医者」といわれた加藤淳造の碑があった。代々医者の家で、元は千葉医学校の助教授だった。前に登ったことのある加波山で、県令三島通庸 (みしまみちつね) らの暗殺を計画していた栃木・茨城・福島 の自由党員急進派16名が、9月に茨城県加波山を拠点に、「自由の魁」等の旗を掲げ蜂起 (ほうき) したが間もなく鎮圧され、富松安正ら7名が死刑に処せられた。加藤はその富松を匿った罪で投獄されている。しかし屈することなく、第2回衆議院総選挙に立候補して当選を果たしている。
 
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伊予ヶ岳は山頂近くが岩峰で、スケールは違うがその南峰の切り立った尖峰が石鎚山に比せられる。

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北峰から眺めるとすごい。とはいえ低山だから、家族連れも多い。
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時間がたっぷりあるので、伊予ヶ岳からいったん降って、富山(とみさん:349.5m)へ向かうことにした。
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村里に入るところに朽ちかけた観音堂らしき赤い屋根のお堂があり、青い空をバックにした伊予ヶ岳の姿が凛々しい。
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 そこからまた村道は少し登り、水仙の咲く中に猪用の罠が仕掛けられていた。
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あたりは猪が掘り繰り返した跡が。このあたりはみかん栽培農家が点在している。通りがかりの農家の男性がみかんの種類をいろいろ教えてくれて、3、4月頃なら味見させるんだがと言っていた。

 富山は曲亭馬琴の里見八犬伝の舞台だが、伊予ヶ岳ほどは人がいなかった。北方頂上の展望台から鋸山や東京湾を眺めた後、下山。
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途中、伏姫の籠欠と呼ばれる観光名所に立ち寄る。伏姫は犬である八房の気を通じてみごもり、八犬士を産んだという馬琴作のファンタジーを元にして、昔作られた名所らしく「伏姫籠窟」と刻まれた苔むした石がある。そこを最近整備したらしくきれいな階段やテラス等々ができている。
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 そこから、岩井駅へ向かいひたすら歩く。どこに行っても水仙が花盛り。
 夜は岩井で民宿に泊り、低額料金で新鮮な魚をたっぷりいただく。
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 翌朝岩井駅へ。電車が来るまで少し町を歩く。

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蓮台寺の大イチョウ。樹齢500年くらいという。里見氏が安房一国を支配していたころか。

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 途中でトイレのため先に駅に戻るという連れ合いと別れ、横道に入る。連れ合いは駅へ行く途中で、片麻痺で杖歩行の男性に行きあい、「背中に背負ってるのは何だね」と訊かれたという。「鎌かね」と。「これは山歩きに使うストックです。杖です。」と答えると、自分の杖を差し出して、「これは山へ行って、黄門様が使ってるのと同じ竹を伐って来たんだ。」と解説。脳梗塞で倒れて、初めは全然立てなかったんだけど、いまは杖でなんとか歩けるようになったんだと言う。さらに、「昔は愛宕山のほうに行くと、いろんな花が咲いていた。シュンランでもいろんな種類があった。それをちょっとだけいただいてきて、庭で育てたんだ。でもいまはなくなっちゃった。」と、懐かしそうに話していたという。

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いっぽう筆者が入り込んだ横道は民宿や旅館が多い。その間に大きな農家か何かが更地になった土地に一基の墓だけがぽつんと立っている。「東京鎮台兵卒」と刻まれている。風化していて判読が難しいが、神戸にも行ったことが書かれているようだ。鎮台とは、1871年(明治4年)から1888年(明治21年)まで置かれた日本陸軍 の編成単位で、位置付けは治安部隊。当初は士族が兵となったが、1874.年に徴兵令が出されているので、この墓の主は徴兵されて鎮台兵となったのだろう。1884年の秩父事件の時、東京鎮台が出動して鎮圧しているが、この人はその中にいたのだろうか。
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 岩井から電車で浜金谷まで行き、鋸山へ行く登山客から離れ、山裾の車道脇でフユイチゴを1時間余りつまんだ。このあたりいたるところに猪の掘った形跡あり。フユイチゴは小さくて、つまんでもぽろりと落ちで、枯れ葉の間に入ってしまう。かがんだ腰が痛くなりおしまいに。
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昼を食べようと浜金谷港に向う。とんびが沢山いてからすはほとんどいない。電線にとまったとんび。近くで見ると鋭い風貌。
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 新鮮なネタいっぱいの回転すしを食べ、フェリー初体験。久里浜へ向かう。かもめが船の周りを飛び回りながらついて来る。
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東京湾には釣り船がいっぱい。逆光の海が白昼夢のよう。
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 かくて二日間がまたたく間に過ぎる。帰宅後連れ合いがフユイチゴのジャムを。裏漉しするので、ほんのちょっとの量にしかならないが、他には代えがたい記憶と共に。

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