障害の奥へ 向こうへ 2022.6.15 すいごごカフェ 小井戸恵子さん(障害学研究者・立命大)【前編】

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脳性マヒの人達はなぜ手術を受けさせられたのか

 1965年生まれ。生まれながらの障害なので、中学3年までずっと群馬の療護園施設と群馬県立二葉養護学校(現・群馬県立二葉特別支援学校)で生活してきた。障害のある人達が周りにいて当たり前のところにずっといたから、障害があるとかないとか自分であんまり考えたことがない。その後いろいろあって議会に挑戦していた時に起こった事故によって、今はサポーターがいないと車いすで自走できない状態になってしまった。今は京都の立命館大学の大学院にいて、脳性マヒの人達はなぜ手術を受けさせられたのか、ということを研究している。

 例えばロボトミーというのは、精神の障害を治すためとしてかつて行われた脳の手術。でも、決してうまくいったわけではない。暴れる人を手術で静かにさせようってことのように私は思う。手術をしたお医者さんが告訴されて新聞に載ったり、「カッコーの巣の上で」って映画になったりで社会問題になったからだと思うけど、日本では1930年代から始まったものの、その手術はおかしいっていう運動が1970年代に起きて、今では日本では禁止になっている。でも、本人にとってどうだったのかというのはどこにも記録がない。


ほぼ記録がない脳性マヒの人にされた手術にも焦点を

 精神の人にされた手術が、脳性マヒの人にされた手術と似てると気づいたのは、知り合いの脳性マヒの友達の頭に手術の痕があって、「頭の一部を壊すと緊張が取れるっていう手術をした」って話をされたから。脳性マヒの人が治療としてされた脳の手術というのは、ロボトミーとか精神の人にされた脳の手術とは違って、調べてもなかなか出てこない。でも、やっぱり手術された事実があるし、失敗したり性格が変わるかもしれないとか言われてやめた人がいるとか、死んだ人がいるという新聞記事も出てきたりして。“同行者たち-「重症児施設」島田療育園の二十年(著・荘田智彦)”って本には、重度施設の障害児の脳性マヒの子供に脳の中の一部を固めたり壊すことが行われてた、ということが書かれてる。

 手術する前よりも悪くなったケースもあったはずなのに、悪くなったって報告はよほど探さないと出てこなくて、研究もされてない。結局脳の中にメスを入れて身体的な症状を治療しようとしたというのは、脳の中をいじって精神を治そうとしたっていうのと同じじゃないかな。同じことが行われているのに、脳性マヒの人にされたことは全然問題とされていないのはおかしいと思いながら、今調査をしているところ。


脳の手術によって身体の症状を治すなんておかしい

 1950年後半から70年くらいまで、パーキンソン病とかの専門医で権威だった神経内科のお医者さんがいた。当時は、その先生を頼って海外からも脳性マヒの子供が来て手術を受けたみたい。でも、それでよかったって話しか出てこないのはなぜか、と今考える。同じ脳性マヒでもいろんな症状があるわけだけど、その医者は脳性マヒの中でもこの人は治るなって思った人を選んだんじゃないかと私は思う。

 こういったことが、今調べてる中で自分ではわかっていること。手術が行われた障害児の施設もいくつかあるんだけど、でも、なにせ情報が全然少ない。脳性マヒのことを調べていると友達のことが頭に浮かぶんだけど、悔しくて涙が出てくる。こんなこと絶対おかしいよって思う。脳の手術によって身体の症状を治すってどういうことなのか、それって必要なのか。それが体にも精神的にも大変な影響を受けたということは、医療の中からも社会的にも何も問題にされない。関心すら持たれてない。まずあったことを知ってもらいたい。そして、医者側だけじゃなく、精神障害者本人や家族の話も伝えていきたい。

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後編→https://room-yellow.seesaa.net/article/495999030.html

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