耳と耳よりな話をします 2022.7.20 すいごごカフェ 水谷淳子さん(耳鼻咽喉科開業医)【前編】

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耳鼻科になるのはとんでもなく大変だった

 そもそも最初は耳鼻科をやるつもりは全くなかった。みんな全然知らないだろうけど、私の学生の頃は大学闘争というのがあって、卒業式も1年半ボイコットした。その後9月にゲリラ的に卒業試験を受けて、国家試験も受けて医師免許は取ったんだけど、このまま医者になるかどうしようと思いながら大学病院の精神科で働いた。でも、勉強会でむつかしい哲学書を原語で読まされたり、こんなのつまんないだろうなと思いながら作業療法の作業を患者にさせてたり、批判しながらも電気ショックを臨床の場でやったり、だんだん自分の気持ちとの落差が大きくなってきて辞めた。そこで、何が一番早く一人前になって稼げるかと考えた時に、耳鼻科かなと思って。ところが、耳鼻科になるのはとんでもなく大変だった。耳というのは聞くだけじゃなくて、体のバランスを取ったり、いろんな働きをするところで。学生の時はほとんど勉強しなかったから、卒業してから耳鼻科になろうとしたこの時が一番勉強した。でもなんとか50年、そんなにミスしないで仕事して食べてこれたんで。


たくさんの働きをする「耳」

 耳というのは、耳たぶがあって、外耳、中耳、内耳と続く。
 外耳道というのはだいたいだいたい25mmから27mmくらいで、鼓膜にぶち当たる。外耳道は、入り口1/3くらいは軟骨。あと2/3くらいは骨でできてる。で、皮膚があるわけだけど、入り口の軟骨が主になってる1/3くらいのところに分泌する働きがあって、そこに耳垢が溜まる。

 中耳の中にある鼓膜は3層から成る。1つは外耳道の皮膚からなって、あと内側は中耳の続きがあって、真ん中に放射線状のと、ぐるぐるっと輪になってる層がある。そこからすりガラスみたいに向こう側が透けて見えるような感じになってて、一番外側からツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨って3つの骨がつながっている。

 ここから先の内耳は、感覚の終末器官。脳から伸びてきて、聴くっていうことと、振動や重力や回転などを全部管理する神経の一番末端。聴こえの神経の方は蝸牛みたいな格好をしてる。音が入ってくると、そこまで振動だったものが途中で電気信号に変わる。それが脳の大脳皮質まで伝わるんだけど、その手前の皮質下って場所で自分の必要な音だけを聴くように選択して、あまり関係ない音はカットする仕組みになってる。例えば、すごい騒音の中で生活してても、必要な音だけ選んで聴いてて、騒音はあまり気にならなくなる。

 もう1つ、めまいを起こすってことは耳の内耳と関係してて。聴こえの神経以外に半規管と耳石っていう身体のバランスをとるものがある。半規管は回転するのを感知して、耳石は直線加速度を感知する。人間が立ったり頭を動かした時に転げないようにするにはこれらが必要。そこがやられちゃうと、暗闇で動けなくなったり、直立できなくなっちゃう。つまり、ただ黙って立ってるだけでも、背中、お腹、足などの筋肉(姿勢)に対して内耳から常に頭に信号が送られていて、修正するよう動いてる。顔の表情筋や顎の筋肉とかも常に耳から信号がいってるから、でれーんとしないで顔の表情が保たれる。そういう働きが内耳にはあるので、耳鼻科は意外と守備範囲が広い。

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